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インプラント治療ステップガイド

皆さま、こんにちは。
梅雨に入り雨に加え、むしむしとした暑さをも感じる季節となりました。
水分や栄養をしっかり摂り、体調等お気をつけてお過ごしください。

さて、皆さんは虫歯や歯周病で抜歯をするとなった時に歯が無くなった部分をどうやって治療するかご存知でしょうか?
もともと歯のあった部分に金属のワイヤーで人工の歯を固定する「部分入れ歯」や、抜いた歯の両隣の歯を削って連結した被せ物を入れる「ブリッジ」、歯肉を開き骨にインプラント体を埋めて被せ物をする「インプラント」の3つの治療法があります。

今回はこの中でインプラント治療について詳しくご説明したいと思います。

①インプラントの仕組み

インプラントはインプラント体、アバットメント、上部構造の3つから構成されています。
「インプラント体」とはフィクスチャーとも呼ばれ、顎の骨に植わる部分のことです。
「アバットメント」とは日本語で支台という意味で、フィクスチャーの上にある人工歯の土台となる部分のことです。
「上部構造」とは、クラウンのことで種類としては一般的な被せ物と同じです。

②インプラント治療の流れ

インプラント治療の大まかな流れは「診査診断」「治療計画立案」「軟組織・硬組織マネジメント」「外科手術」「補綴治療」です。

〈診査診断〉
まずインプラント治療を行うにあたり、患者様それぞれの口腔内軟組織の視診や清掃状態の確認、欠損部分と対顎とのクリアランスの確認、X線画像による顎骨硬組織密度や分布の画像診断等を行う必要があります。
X線画像上での硬組織内部と分布状態把握を行うことでインプラント治療の可否を決定致します。

〈治療計画立案〉
治療計画とは、インプラント体を顎骨のどの部分にどの角度で埋入するか、どういった素材を用いて補綴処置を行うか等を決めることです。
具体的にはX線CT撮影によって得られた3Dデータを用いて、専用のソフトを用いてパソコン上で計画を立てます。

X線CT撮影では普段のレントゲン画像と違い平面ではなく、立体的な骨の形・神経の通り道を観察することができ、インプラント治療時には必須のものになります。

この画像はCT画像です。
下顎の中を通る下歯槽神経の位置をマーキングし、3Dデータ上に印記し、上部構造の位置などを考慮しながらインプラント体の長さや埋入部位と方向、深度を決定します。

〈軟組織・硬組織マネジメント〉
インプラント治療でインプラント体を埋入するにあたり重要になってくるのは顎骨の高さや幅です。
顎骨の骨は外傷や歯周病などで失われるだけでなく、歯の喪失に伴い萎縮し、上顎では上顎洞に、下顎では下顎管(下歯槽神経等)に近接します。
骨の吸収によりクラウンインプラント比や上部構造形態にも影響し、隣接する天然歯との並びにおいても不調和が生じることになります。
もし、骨幅の不十分な状態で埋入を行ってしまうと、埋入後に骨吸収が助長されてしまう可能性もあります。

硬組織マネジメントの方法として、1.自家骨移植2.骨再生誘導法3.上顎洞挙上術(ソケットリフト、サイナスリフト)4.骨延長術5.スプリットクレフト等の方法があります。

左下臼歯部に骨補填を行い、
インプラント体埋入

また軟組織の状態も重要な治療項目です。
軟組織マネジメントにおいては見た目やブラッシングのしやすさ等が重要な項目となってきます。
インプラント周囲にしっかりとした幅と厚みをもった粘膜が存在すればインプラント周囲粘膜界面における組織剥離に抵抗でき、インプラント体をしっかりと保護することができます。
また上部構造と調和した適度な幅と厚みのある粘膜が存在することで審美的にも優れた状態となります。
軟組織マネジメントの種類としては一般的な歯周外科治療で行われるような遊離歯肉移植術や結合組織移植術が行われます。
硬組織だけでなく軟組織の状態も同時に加味し、計画立案することがインプラント治療を成功させるために不可欠となります。

  

〈外科手術〉
治療計画立案後はいよいよインプラント体埋入の外科手術となります。
インプラント体埋入手術には1回法と2回法があります。
1回法はインプラント体を埋入後、インプラント体上部あるいはアバットメントを粘膜上に露出しておき、粘膜を閉鎖せずにインプラント体と骨の結合を待ち、2回法ではインプラント体埋入後、粘膜を完全に閉鎖し口腔内に露出しない状態で骨との結合を待つ方法です。
2回法では骨との結合後、アバットメントを連結させる二次手術が必要となってきます。
1回法は二次手術が不要であることが大きな利点で、患者様にかかる負担が少なく、治療期間を短くすることができます。
その一方でインプラント体あるいはアバットメントが口腔内に露出していることでインプラント体に外力が加わるリスクがあります。
1回法は欠損部の骨の状態が良好で、二次手術時に軟組織マネジメントを併用する必要のない場合などに適用となります。

2回法ではインプラント体は粘膜に覆われ口腔内に露出しないため、インプラント体の安静が確保できることが大きな利点です。
一方で二次手術が必要となるため1回法と比較して侵襲が大きくなってしまいます。
2回法はインプラント埋入時の固定が獲得できない場合や骨造成が必要になる場合に適応となります。

このように2通りの方法があり、患者様の口腔環境または体調等を鑑み、慎重に術式を選択していきます。

〈補綴治療〉
インプラント体を埋入後、アバットメントを装着し、型取り後に上部構造を作成・装着し、インプラント治療が一通り終了します。
上部構造とインプラント体との連結方法として、スクリュー固定式とセメント固定式の二種類が存在します。
それぞれ利点欠点が存在しますが、状況に合わせて選択します。

スクリュー固定式では上部構造とインプラント体とを小さなスクリュー(ねじ)を用いて固定します。
セメントを固定に用いないので、高い適合が求められるためインプラント体との適合性良好です。
また、容易に取り外しができるためメインテナンスがしやすいのも大きな利点です。
一方、スクリューを通す穴(アクセスホール)が上部構造咬合面に存在するため、アクセスホールを封鎖したとしてもセメント固定式に比べると審美性に劣るのが欠点です。

セメント固定式では上部構造とインプラント体とをセメントを用いて固定します。
スクリュー固定式と異なり、上部構造にアクセスホールが存在しないため審美性に優れます。
一方、仮着用セメントを用いるため維持力コントロールが難しいです。
また、あふれたセメントを取り残す可能性もあり、セメントがインプラント歯周炎の原因にもなる可能性があることが欠点と言えます。

以上のことから現在では、取り外しができメインテナンス性にも優れるスクリュー固定式の固定方法が主流になりつつあります。

 

③油断できない!インプラント治療のその後

インプラント治療で大切なのはメインテナンスです。
インプラント治療というのは、異物を生体内に埋入し、上皮を貫通させ口腔内に露出させるといういわば病的な状態を保つという特殊性から、定期的なメインテナンス・リコールが重要になります。
5年以内に起こるインプラント治療後の併発症で多いものは「歯冠前装部の破折」や「インプラント周囲炎や軟組織トラブル」、「スクリューの緩み」等が挙げられます。
特にインプラント周囲炎になってしまうと、インプラント周囲の軟組織の炎症や骨の進行的な吸収が起き、最悪の場合インプラント体を除去しなければならなくなってしまうこともあります。
ブラッシング指導や機械的クリーニング、プロービング検査、抗菌療法、エックス線検査などを行い、インプラント周囲軟組織の初期病変を早期発見し、対応できることが大切です。

インプラント治療の流れとメインテナンスについて説明いたしました。
ただ埋めるだけではなくしっかりとした術後管理が必要となります。
歯科医師だけでなく、患者様の日ごろの歯ブラシやフロスをしていただくことで共にインプラントを維持していきます。

長くなりましたがインプラント治療の概要は以上のとおりです。
インプラント治療のほか、入れ歯やブリッジ等につきましても、何か分からないことがありましたら、いつでもご質問ください。

歯科医師 濱田 崇人

参考資料
・日本歯科医師会ホームページ.“インプラント-歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020”.https://www.jda.or.jp/park/lose/index19.html,(2024-6-3).
・赤川 安正他編.よくわかる口腔インプラント学 第4版 .医歯薬出版,2023.
・宗像 源博.エビデンスに基づいたインプラント治療・骨造成: Early Failure回避のためのコンセプト.医歯薬出版.2024,

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