皆さま、こんにちは。
10月も半ばを過ぎ、朝晩は徐々に肌寒い日も増えて参りましたがお変わりはないでしょうか?
日中はさわやかな風が心地良く、すすきやコスモスに秋の風情を感じる季節となりました。
一日の気温差が大きい日もありますので体調を崩さないようにお気を付けください。
連日の新型コロナウィルス感染症に関する報道にて、初期症状や後遺症にて味覚障害が発現されることを耳にされたことがあると思います。
今回はこの味覚障害に関するお話しをさせていただきます。
味覚の仕組みについては過去の記事をご覧ください。
(https://www.chiyoda1st.com/2020/03/味覚の仕組み.html)
味覚障害は障害部位別、原因別、症状別に分類されます。
〇障害部位別分類
味を感じるプロセスとして味覚はまず、食べ物に含まれる味物質(化学物質)が私たちの口の中に入り、舌に触れるところから始まります。
舌の上や側面には、乳頭と呼ばれるざらざらとした多数の突起があり、そこに味物質を感知する“味細胞”が集まっています。
味細胞の表面には味覚受容体が存在し、味物質を受け取ると、その情報は味細胞の内部をリレーし電気信号に変換されます。
さらに信号が神経細胞を通り、大脳に伝えられることで私たちは味を認識することができます。
このプロセスのどこかしらに不具合が生じることで味覚障害が発現します。
味覚の障害部位の分類から分岐し、原因別に分類されます。
〇亜鉛欠乏性味覚障害:
味覚の受容器である味細胞のターンオーバー(代謝)には微少元素である亜鉛(Zn)が関与しています。
亜鉛が低下することで正常な味細胞の発生が遅れ味覚障害を生じます。
さらに以下に分類されます。
ⅰ)食事性味覚障害 食事摂取量や偏食が原因と考えられるもの。
ⅱ)薬剤性味覚障害 降圧剤や精神安定剤などの副作用によるもの。
ⅲ)全身疾患性味覚障害 腎不全や肝不全などの疾患が原因のもの。
1. 下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす 1) 臨床症状・所見 皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),食欲低下,発育障害(小児で体重増加 不良,低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症 2) 検査所見 血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値 注:肝疾患,骨粗しょう症,慢性腎不全,糖尿病,うっ血性心不全などでは亜鉛欠乏であっても低値 を示さないことがある. 2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される 3. 血清亜鉛値 3-1:60µg/dL未満:亜鉛欠乏症 3-2:60 ~ 80µg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏 血清亜鉛は,早朝空腹時に測定することが望ましい 4. 亜鉛を補充することにより症状が改善する (亜鉛欠乏症の診療指針2018より) |
〇突発性味覚障害:
血清亜鉛値は正常値であるにも関わらず原因が明確ではないもの。
〔局所的原因〕
・不適合補綴物(詰め物、かぶせ物)
異種金属の詰め物同士が接触すると微少電流が流れ、味覚障害を発現することがありま
す。
このような場合は金属アレルギーの検査を行うと共に原因となる補綴物を撤去する必要があります。
・味孔閉鎖
舌の上の汚れ(舌苔)などにより味孔が閉鎖し、味物質が味細胞に到達しないために起こります。
舌苔を確認し、定期的に舌ブラシを用いて機械的に清掃してください。
・舌炎
舌炎を発症すると味蕾が障害されて味覚障害を起こします。
代表的なものとしては不潔な義歯の使用や抗菌薬の長期投与あるいは免疫不全によって生じる真菌の一種であるカンジダ菌が感染して生じる口腔カンジダ症があります。
液検査や培養検査を実施し口腔内の清掃や抗真菌薬の処方を行います。
・嗅覚機能低下
感冒(かぜ)、花粉症などの鼻疾患により嗅覚の低下が原因となる味覚障害。
血液検査、 アレルギー検査を行い味覚由来の障害と区別する必要があります。
まずは鼻疾患の治療を行い、治癒後に味覚症状が改善されない場合は味覚検査を行う必要があります。
・神経損傷
口腔内外領域の手術時における神経損傷によりおこる味覚障害。
味覚検査と共に知覚検査を行う必要もあります。(障害部位によって全身的原因にも含まれます。)
・放射線治療後
舌癌や歯肉癌などの口腔がんや咽頭がんの多くは扁平上皮癌でしばしば放射線療法が行われます。
この際の副作用(急性障害)として重篤な口内炎や味覚障害が起こります。
これらの症状は数か月で緩和されると言われています。
〔全身的原因〕
・唾液分泌障害 口腔乾燥症
シェーグレン症候群、薬剤性、咀嚼能力低下、加齢、放射線治療後の機能障害などによる唾液分泌量の低下が原因となるもの。
唾液分泌量、涙液分泌量、血液検査が必要となります。
・貧血
悪性貧血によるHunter舌炎や鉄欠乏性貧血による平滑舌などが原因で生じるもの。
血液検査を行います。
・心因性
うつ病やヒステリーなどによる精神疾患が原因とされるもの。
服用薬剤の問診や心療内科との連携が必要となります。
味覚障害が起こるとどのような症状が起こるのか?症状別分類を下記に示します。
①味覚減退:食べ物の味が本来よりも薄く感じる。
②自発性異常味覚:口腔内に食べ物がないにも関わらず、常に味がする。
③味覚消失:4基本味全て感じない。
④解離性味覚障害(孤立性無味症):4基本味のうち特定の味が消失している。
⑤異味症:食べ物本来の味と異なる。
⑥味覚錯誤(錯味症):特定の味を他の味と間違える。
⑦味覚過敏:食べ物本来の味より濃く感じる。
(*片側性無味症:舌の左右いずれか一側で味を感じない)
電気味覚検査…舌の味覚の伝達に関与する神経の障害部位を特定する目的で行う。
ろ紙ディスク法…支配神経別の障害部位の特定、解離性味覚障害などの特定の味がわからない味覚障害の検査も可能。
〇治療法
味覚障害の多くはその発症に亜鉛欠乏症が関わるため治療の第1選択は亜鉛補充療法が適用になります。
現在日本で認可されているポラプレジンク(プロマック)や酢酸亜鉛製剤(ノベルジン)の2種類が治療薬として処方されています。
また亜鉛の低値が認められない場合においても基礎疾患(慢性肝疾患、糖尿病、腎不全など)の所見・症状が改善する報告があるため亜鉛補充を考慮してもよいと〔亜鉛欠乏症の診療指針2018〕に記載がありました。
その他の味覚障害の治療法に関しては第1に原因の除去、生活指導、内服薬、漢方や外用薬の投与が検討されます。
例えばドライマウスの原因となる薬剤を使用している場合は中止あるいは減量、他剤への変更が可能か主治医や薬剤師と相談して検討する必要があります。
生活指導に関しては食べ物をしっかり咀嚼し、唾液分泌を促進することで唾液腺の機能を保持、改善できることを知っていただき、歯周病やう蝕の予防にも効果的であることを理解していただければなお良いと思います。
〇まとめ
味覚障害を生じると食の楽しみが減るだけではなく、食欲不振から栄養不足になったり味付けが濃くなるため、塩分や糖分を過剰摂取してしまい、栄養障害の危険性も高くなります。
味覚障害は歯科で対応できる場合もありますが、全身疾患が原因となることも多くある為、耳鼻咽喉科・内科・心療内科など他科との連携が大切になってきます。
以前と比較して味を感じにくくなった等でお困りの方がいらっしゃいましたら一度ご相談ください。
今回は一般的な味覚障害の原因や治療法についてお話させていただきました。
まだまだ未解明の部分も多い分野ですが、新型コロナウィルスによる味覚障害のメカニズムに関しても徐々に解明され始めています。
3月29日新型コロナウイルスの口内感染(3月25日 Nature Medicine オンライン掲載論文) | AASJホームページ
今後さらに研究が進み、新たな治療法が確立されることを願います。
歯科医師 小松 リナ
(参考文献:口腔内科学 第1版、基礎歯科生理学 第5版、耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻12号)