新年あけましておめでとうございます。
幸多き新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。
皆様のご健康とご多幸を心からお祈りいたします。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、新型コロナウイルス感染症の感染者数が再び増加し、先の見えない不安を感じながら生活されている方も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症は感染しても約8割の方は軽症で経過し、治癒する例も多いことが報告されています。
しかし、高齢者や基礎疾患のある方(糖尿病、心不全、呼吸器疾患など)、透析を受けている方、免疫抑制薬や抗がん薬などを用いている方では、重症化のリスクが高いことが報告されています。
特に呼吸器疾患については、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいだけでなく、持病そのものを悪化させる可能性も懸念されます。
今回はその呼吸器疾患の一つであり、近年注目を集めている「誤嚥性肺炎」についてお話したいと思います。
●誤嚥性肺炎とは
誤嚥性肺炎は誤嚥によって引き起こされる肺炎であり、高齢者の肺炎の多くに誤嚥性肺炎の可能性があるとされています。
そして高齢者の肺炎は高齢になるに従い、受療率や罹患率、死亡率は増加しています。
●誤嚥とは
誤嚥とは食べ物や唾液が気管の中に入ってしまうことを言います。
本来、食べ物や唾液が気管に入らないように、飲み込む際には喉頭蓋や披裂部により気道を閉鎖します。
しかし、この閉鎖が甘かったり、飲み込む力が弱くて咽頭部に食べ物や唾液が残留してしまったりすることで誤嚥をしてしまいます。
【嚥下時の喉の様子】
左:食事前 右:嚥下中
赤の斜線部分の喉頭蓋が気道を閉鎖して、食べ物が気管に入らないようにしてくれている
この他にも、誤嚥は意識レベルの低下によって飲み込むタイミングがずれてしまったり、不意に食べ物が食道から逆流してしまったり(逆流性食道炎)しても生じ、上記のような飲み込む機能の低下を嚥下障害と言います。
【逆流性食道炎による誤嚥】
寝ている間など、不意に食べ物が食道から逆流することで、気管の方に胃の内容物が入ってしまう
嚥下障害の原因としては、加齢は勿論、認知症や脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、筋委縮性側索硬化症(ALS)など様々な疾患が挙げられ、薬剤でも嚥下障害に影響を及ぼすものがあるとされています。
また、食べ物や唾液が気管の中に入ろうとすると、身体は咳をすることで気管の中への侵入を防ごうとします。
この反射を専門用語で『咳嗽(がいそう)反射』と言い、この反射が低下すると、食べ物や唾液による刺激に対しても咳が発生せず、知らず知らずのうちに誤嚥するといった不顕性誤嚥を起こしやすくなってしまいます。
【不顕性誤嚥の嚥下造影検査像】
気管内に誤嚥を認める(矢印)が、咳嗽反射は無く、誤嚥したものは吐き出されなかった
咳嗽反射の低下の原因としては、加齢や脳血管障害、レビー小体型認知症やパーキンソン病、パーキンソン関連疾患などのドパミンの産生が低下する疾患が挙げられ、こちらも薬剤で咳嗽反射に影響を及ぼすものがあるとされています。
●誤嚥をしたら必ず誤嚥性肺炎になってしまうのか
全ての誤嚥が誤嚥性肺炎につながるわけではありません。
誤嚥性肺炎が生じるかどうかは、『抵抗と侵襲のバランス』で決まり、「抵抗が小さい」もしくは「侵襲が大きい」ときに誤嚥が肺炎へと繋がります。
この場合の「抵抗」とは、吐き出す機能や免疫機能を指し、「侵襲」とは、誤嚥する物の量や性質(気道への為害性)が関係します。
誤嚥をしても、咳をして吐き出すことが可能で、免疫機能が良好であれば肺炎を生じることもありません。
また、誤嚥されたものが清潔で為害性が無ければ、侵襲としては大きくないため肺炎は生じません。
●誤嚥性肺炎の予防
①「抵抗」を向上させる
免疫機能や吐き出す機能を向上させることで、抵抗の向上をします。
免疫機能の向上には、栄養状態の改善や規則正しい生活を送ることなどが挙げられます。
薬剤の面で言うと、肺炎球菌ワクチンの利用も方法としてあり、これは誤嚥の二次感染として肺炎球菌に感染する可能性があり、不潔な口腔内には肺炎球菌が日和見菌として存在していることから考えられています。
吐き出す機能の改善のためには、咳嗽反射を促す薬剤(ACE阻害薬やシロスタゾールなど)や食品を利用する方法があります。
薬剤の利用は嚥下訓練とは異なり、服用さえできれば効果が期待できるため、認知症をはじめとする意思疎通が困難な場合に有効であると考えられています。
②「侵襲」を減らす
誤嚥する物の量と質を改善することで、侵襲を減らします。
誤嚥の量を減らす方法には嚥下訓練があり、喉の周りを鍛える運動など、様々な訓練があります。
A:顎持ち上げ体操
下を向いて力いっぱい顎を引き、同時に顎の下に両手の親指を当てて、顎は下に、指は上へと押し合う状態を5秒間キープ
B:おでこ体操
おへそをのぞき込むように顎を引き、おでこに手根部を当てて、手とおでこで5秒間押し合う
嚥物の質を改善する方法には口腔ケアがあります。
唾液中には口腔内の細菌が大量に含まれており、口腔ケアにより唾液中の細菌数を減らすことが可能になります。
他にも、不意に食べ物が食道から逆流することで生じてしまう誤嚥に対しては、消化管運動促進薬や制酸薬の服用で侵襲を減らすといった方法があります。
ここまで誤嚥性肺炎や誤嚥のことについてお話しをさせていただきました。
誤嚥性肺炎は高齢者では特に身近にある病気で、日頃の口腔ケア(歯磨き)で防ぐことができるものです。
口腔ケアは虫歯や歯周病を予防するだけでなく全身の健康を維持するために有効なものですので、面倒になりがちかもしれませんが今一度意識して口腔ケアを行ってみましょう。
末尾となりますが、新型コロナウイルス流行の終息を心より祈っております。
歯科医師
奥村知里
参考文献
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識
https://www.mhlw.go.jp/content/000699304.pdf
基本のきほん 摂食嚥下の機能解剖
薬からの摂食嚥下臨床 実践メソッド